天上の温泉

 突然の昔話ではありますが、会社員だった時代には、全道を走り回っていて、ことに倶知安方面での仕事もよくありました。

 最初は日帰りで行っていたものが、お客様が増え、泊まり出張になり、さらに倶知安だけではなく、洞爺湖、伊達、岩内などにも仕事が増えるにつけ、倶知安で宿泊する機会も多くなっていました。

 当初は倶知安町内や伊達市のビジネスホテルに泊まっていましたが、ある時見つけたのが、ニセコワイスホテル。

 倶知安市内からほど近い山の上のスキー場近くにあり、本来はリゾートホテルですが、築年数が古いためか、平日だとビジネスホテル価格で泊まれたのです。
 その頃には、出張日程も増えて一泊二日ではなく、二泊や三泊もあったので、古いながらも寝心地の良いベッドがある、リゾートホテルはありがたかったものです。

 お風呂が温泉なのも嬉しいところで、特に露天風呂の気持ち良さは、素晴らしいもので、しんどい出張の中でのささやかな楽しみでした。

 当時、出張では夜遅く着いて、朝早く出かけるためにゆっくりできないことから、温泉ホテルはあえて避けていましたが、ここだけは別で、何度も訪れました。

 面白かったのが、倶知安という土地柄、外国人の宿泊者も多かったこと。
 いつぞやはチェックイン待ちをしていると、先客は台湾人らしく、北京語を話しています。宿泊者用のラウンジがあって、そこはWi-Fiが使えたのでいつもパソコンを持ち込んで仕事をしていましたが、その時もラウンジにはカナダから来たらしいご夫妻が、英語で会話していました。
 で、無事仕事を終えていそいそと温泉へ行きますと。洗い場では隣の青年ふたりは、どうもマレー語らしき言語で会話しています。とどめに露天へいくと、そこには英語はもちろん仏伊スペイン語のいずれでもない、まったく理解不能の言語で話す二人組がいて、どこなんだここは、と。(笑)
 そんな異国感というか、異空間的雰囲気があったものでした。

 いつか週末にゆっくりのんびり泊まりに来たいなあ、と思いつつ、叶わないまま。

 先日、ふと気になって泊まりには行けないながらも、ネットの予約サイトを調べてみると。
 どこのサイトでも空き室情報が出ていません。おかしいなあ、と思って公式サイトを探してみますと。
 なんと、1年前に閉館しているのがわかりました。さらに中国資本に買い取られたため、建物そのものも、取り壊されてしまったようです。

 偶然にも、昨日テレビのニュースで、ホテルを買い取った中国資本が、新たなホテルを建設していると報道していました。

 外国人観光客によって、賑やかになってはいるようですが、物価や地代の高騰で、地元の方には良いことばかりではないという、報道もされていました。

 時が経ち、時代が変わって、いろいろなものが様変わりするのは世の常ですが、もうあの温泉に入ることはできないのかと思うと、ちょっと寂しい気もします。もしかすると、自分的にはですが、いちばん良い時に訪れることができたのかも知れません。